AI技術の進歩により、文字情報を自然な音声へ変換する「Text-to-Speech(TTS)」が幅広く活用されるようになりました。
ナビゲーションや読み上げサービスはもちろん、教育やエンターテイメント、ビジネスといった多様な場面で活用され、私たちの生活や仕事の利便性を高めています。
近年は日本語対応の精度も大きく向上し、音声合成はより身近な存在になりました。
この記事では、Text-to-Speech(TTS)の基本的な仕組みや使い方、日本語での活用事例を紹介します。
※こちらの記事は2025年10月7日時点での情報です。
Text-to-Speech(TTS)とは、入力した文字情報をコンピューターが自動的に音声へ変換する技術のことです。
1950年代にはすでに初期の音声合成装置が登場しており、意外にも半世紀以上にわたる研究の歴史があります。
かつてはロボットのような機械的な声が一般的でしたが、近年はディープラーニング技術を活用したAI技術の進化により、人間の抑揚や息づかいまで再現できるほど自然な音質が実現しました。
現在はスマートフォンの音声アシスタントやカーナビ、オーディオブック、コールセンターの自動応答など、日常生活のさまざまな場面で活用されています。
医療分野では、視覚に障がいのある方向けの読み上げ機能に加え、失語症など発話に困難がある方のコミュニケーションを支援するツールとしても欠かせない存在です。
さらに、教育現場では多言語学習や発音練習に利用され、企業では動画ナレーションや自動アナウンスの制作コスト削減にも貢献しています。
このように、Text-to-Speech(TTS)の活用範囲は年々拡大しており、利便性の向上だけでなく情報アクセシビリティを高めるうえでも不可欠なテクノロジーとして注目されているのです。
Text-to-Speech(TTS)は、次の3つのプロセスでテキストを音声に変換しています。
それぞれのプロセスについて、詳しく見ていきましょう。
コンピューターは、まず入力されたテキストを単語や文法構造に分解し、発音やアクセント、イントネーションを解析します。
日本語の場合は漢字の読み分けや文脈による意味の違いを判断し、英語であれば単語ごとの強弱やリエゾン(音声の連結)なども考慮されます。
また、文章全体のリズムや適切な間の長さを計算することで、自然な読み上げの土台が作られます。
これが「言語解析」と呼ばれるプロセスです。
次に、解析結果をもとに「どのような声で、どんな抑揚で話すか」を決定する、声の設計図(音響特徴量)を生成します。
この設計図には、強調したい単語や間の取り方など、細部まで指示が盛り込まれるのが特徴です。
最新のText-to-Speech(TTS)では、感情や話者の個性を反映させるパラメータも設定でき、元気な声や落ち着いた声など、目的に応じた表現を加えることも可能です。
声の設計データが完成したら、そのデータをもとに実際の音声データ(音声波形)を生成します。
かつては収録済み音声を組み合わせる「波形接続方式」が主流でしたが、現在はAIが声そのものを生成する「ニューラル音声合成」が主流です。
これにより、人間の声に近い滑らかな発話が実現し、オーディオブックやカーナビ、コールセンターの自動応答など、多様なサービスで活用されています。
Text-to-Speech(TTS)は、テキストを自然な音声に変換する技術として、多様な分野で実用化が進んでいます。
AIによる音声合成は年々進化しており、抑揚や感情表現を伴った音声をリアルタイムで生成できるようになりました。
ここでは、Text-to-Speech(TTS)の代表的な活用事例を、日常生活からビジネスシーンまで幅広く紹介します。
オーディオブックは、スマートフォンやタブレットで書籍を耳から楽しめる人気のコンテンツです。
従来はプロのナレーターや声優による朗読が主流でしたが、近年はAIによるText-to-Speech(TTS)の導入が進み、膨大な書籍も短時間で音声化できるようになりました。
制作コストを削減できると同時に、ジャンルや言語の選択肢も広がっています。
音声で内容をインプットできるため、移動中や家事をしながらといった「ながら読書」が可能になります。視覚に障がいのある方も読書を楽しめるのが魅力です。
音声アシスタントやスマートスピーカーは、話しかけるだけで検索や音楽再生、スケジュール管理などを行える便利なデバイスです。
自然言語処理(NLP)で質問内容を理解し、Text-to-Speech(TTS)で答えを音声として返すことで、まるで人と会話しているかのような体験を提供します。
ニュースの読み上げや家電操作にも対応するなど、家庭やオフィスでの利用が急速に拡大しています。
カーナビでは、Text-to-Speech(TTS)を使った音声案内が安全運転をサポートします。
「50m先を右折」「この先、渋滞しています」といった情報をリアルタイムで提供するため、運転者は視線を画面に落とすことなく、運転に集中しながら目的地まで移動できます。
最近のシステムは交通状況や天候データと連携し、より自然で分かりやすい案内を実現しています。
問い合わせ対応や顧客満足度調査など、カスタマーサービスの現場でもText-to-Speech(TTS)技術の導入が進んでいます。
AI音声を活用した自動応答システムは24時間稼働でき、人件費を抑えつつ安定した対応が可能です。
例えば、以下のような活用例が挙げられます。
これによりオペレーターの負担を減らし、顧客対応の待ち時間短縮、業務効率化、コスト削減につながります。
金融機関やECサイト、公共サービス窓口など、幅広い業種で採用例が増えています。
多言語対応しているText-to-Speech(TTS)は、国際的なビジネスや旅行においても活用できます。
翻訳エンジンと連携させれば、英語や中国語などに変換した文章を自然な発音で読み上げられるため、海外顧客へのカスタマーサポートやオンライン商談にも役立ちます。
さらに、学習者が発音を耳で確認できるため、語学学習ツールとしても有効です。
スマートフォンの翻訳アプリと組み合わせれば、海外旅行などでの現地会話もスムーズにサポートしてくれます。
Text-to-Speech(TTS)は教育現場や自己学習の分野でも活躍しています。
eラーニング教材や授業資料を音声化することで、通勤中でも学べる「ながら学習」が可能です。
視覚障がい者やディスレクシア(読字障がい)を持つ方にも情報を届けられる点は大きなメリットです。
最近は感情表現や話速を調整できるサービスもあり、聞き手が集中しやすい音声にカスタマイズできます。
商用利用が可能なText-to-Speech(TTS)サービスを活用すれば、動画コンテンツのナレーションやゲーム内キャラクターボイスを短期間で制作できます。
従来は声優やナレーターを手配していた工程を自動化できるため、制作コストと時間を大幅に削減できます。
複数の声質や感情表現を使い分ければ、動画のクオリティ向上や多言語展開も容易です。
SNSなどの動画や企業プロモーション、インディーゲーム開発などで導入事例が増えており、クリエイターにとって強力な武器となっています。
Text-to-Speech(TTS)を導入するメリットは、主に以下の3つです。
Text-to-Speech(TTS)を活用すれば、ナレーションや自動音声の制作にかかる費用を大幅に削減できます。
ナレーターや声優を起用する場合、録音スタジオの手配や修正時の再収録が必要ですが、Text-to-Speech(TTS)ならテキストを入力するだけで高品質な音声を生成可能です。
製品紹介動画や社内研修資料など、頻繁に内容を更新するコンテンツでも、追加コストを抑えながら短時間で音声を差し替えられます。
クラウド型サービスを選べば初期投資を抑えられるため、企業規模を問わず導入しやすい点も魅力です。
Text-to-Speech(TTS)は単なるコスト削減にとどまらず、業務フローの効率化にも貢献します。
例えば24時間稼働の自動音声応答システムを構築すれば、夜間や繁忙期でも顧客からの問い合わせに対応可能です。
また、店舗案内や施設の館内放送、FAQの自動読み上げなど、人が直接対応していた作業をText-to-Speech(TTS)が担うことで、スタッフは複雑な相談対応や付加価値の高い業務に集中できるでしょう。
多言語対応のText-to-Speech(TTS)を利用すれば、海外顧客向けサポートを少人数で運営することも可能です。
自社の製品やサービスにText-to-Speech(TTS)の技術を組み込むことで、視覚に制限のある方や、加齢によって画面の文字を読むのが難しい高齢者にも情報を届けることが可能です。
自治体の公式サイトや交通機関の案内ページ、ネットショッピングの読み上げ機能など、音声化することで新たな顧客層にリーチでき、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の向上にもつながります。
特に公共サービスや医療機関、教育機関では、アクセシビリティ向上が法令やガイドラインで求められるケースも増えており、Text-to-Speech(TTS)はその実現を支える重要な技術と言えるでしょう。
Text-to-Speech(TTS)は優れた技術である一方、実際に利用する場合には、デメリットも想定しておく必要があります。
最新のText-to-Speech(TTS)はディープラーニング技術を活用し、自然な抑揚や感情表現が可能になっています。
しかし、それでも微妙なニュアンスや人間特有の温かみ、ライブ感までは完全に再現できないケースがあります。
例えば、企業CMや映画の吹き替え、心に響くナレーションなど感情移入が重視される場面では、プロのナレーターや声優を起用したほうが聞き手に強い印象を残せる場合もあり、用途に応じて使い分ける判断が重要です。
無料で試せるText-to-Speech(TTS)ツールもありますが、商用利用や高品質な音声生成には有料プランが必要になる場合があります。
代表的な料金例は以下の通りです。
Text-to-Speech(TTS)サービス |
料金 |
Gemini 2.5 Flash TTS |
テキストトークン100万個あたり0.5USD(約75円)~ |
Amazon Polly |
100万字に対して4.00 USD(約590円)(無料利用枠あり) |
ElevenLabs |
3万文字に対して月5.0USD( 約740円) 10万文字に対して月11.0USD(約1,620円) |
※2025年10月時点のレート
ツールごとに従量課金制や月額制など料金体系はさまざまで、利用頻度が高い場合はランニングコストが増大する可能性があります。
大量の音声を生成する場合は、文字単価や無料枠の有無、商用ライセンスの条件を事前に確認しておくことが重要です。
関連記事:ElevenLabs(イレブンラボ)とは?日本語対応の有無や使い方・料金、マーケティング活用事例について解説
Text-to-Speech(TTS)サービスは世界中に多くの提供元があり、機能や料金、対応言語もさまざまです。
用途に合わないサービスを選ぶと、思ったような品質のアウトプットを得られない場合があります。
ここでは、Text-to-Speech(TTS)サービスを選ぶときの4つの基準を紹介します。
日本語での利用を想定している場合、最初に確認したいのは音声の自然さです。
抑揚や間の取り方、イントネーションが不自然だと聞き手に違和感を与えてしまう可能性があります。
ツールには試聴デモが用意されていることが多いので、複数を聞き比べて、機械っぽさがないか、イントネーションは自然かなどを確認してみてください。
最近はAIによるニューラル音声合成を採用したサービスも増えており、人の声に近い自然さを実現しています。
ニュース読み上げや教育用途では落ち着いた声、動画ナレーションには温かみのある声など、用途に合っている声かどうかで判断すると良いでしょう。
Text-to-Speech(TTS)サービスの料金プランは大きく分けて2種類あります。
利用頻度が少なく、必要なときに、必要なだけ利用したい場合は従量課金制のツールを選ぶと良いでしょう。
一方で、定期的に大量の音声データを生成する場合は月額制の方がコストを抑えられることが多いです。
例えば、Amazon Pollyは100万字あたり4.00USD(約560円/無料枠あり)、ElevenLabsは3万文字で月5USD(約740円)からなど、サービスごとに価格設定は異なります。
将来的な利用量も考え、料金シミュレーションを行うと安心です。
作成した音声をSNSや広告などで使用したい場合には、商用利用の可否を必ず確認してください。
サービスによっては、無料プランでは商用不可、有料プランのみ商用可というケースがあります。
利用規約やライセンス条件を事前にチェックし、収益化を予定しているコンテンツでも問題なく使えるか確認することが重要です。
声質のバリエーションやカスタマイズ性の高さには、ツールごとにバラつきがあります。
用途に応じて、以下を確認しておくのがおすすめです。
ナレーション用の落ち着いたトーンから、キャラクターボイスに適した子どもの明るい声まで、幅広い音声を出力できるツールも存在しています。
続いては、おすすめのText-to-Speech(TTS)ツールを5つ紹介します。
実際に導入する際は、必ず各ツールの最新利用規約をご確認ください。
ツール名 |
特徴 |
対応言語・音声数 |
料金体系 |
商用利用 |
活用例 |
Google Cloud Text-to-Speech |
・Google提供のAPI型TTS ・WaveNetなど最先端音声モデルを利用 ・高品質で自然なイントネーション |
50以上の言語・380種類以上の音声 |
従量課金制(使用文字数に応じて課金) |
利用規約に準拠 |
・コールセンター自動応答 ・動画ナレーション |
Amazon Polly |
・AWSが提供 ・ニュース読み上げや音声アシスタントにも採用 ・API連携が容易で開発者向け機能が豊富 |
40以上の言語・100種類以上の音声 |
従量課金制 (サインアップ後1年間は無料枠あり) |
利用規約に準拠 |
・ゲーム内アナウンス ・リアルタイム字幕読み上げ |
Microsoft Azure Text to Speech |
・感情表現や話速・抑揚を細かく調整可能 ・音声対応エージェントやバーチャルアバター構築にも対応 |
多言語 |
従量課金制(使用文字数に応じて課金) |
利用規約に準拠 |
・電子書籍の音声読み上げ ・アプリ内読み上げ |
VOICEVOX |
・オープンソース ・多彩なキャラクターボイス ・イントネーション調整に対応 |
日本語 (複数キャラクターボイス) |
無料 |
可能 |
・動画ナレーション ・オリジナルキャラクターボイス |
CoeFont |
・1万人以上の声優・ナレーターのAI音声を提供 ・Webブラウザ操作で簡単 |
多言語 |
800文字まで無料 |
有料プランで可能 |
・企業動画 ・広告ナレーション |
※商用利用の可否や料金プランは随時変更される場合があります。
まずは、自然で高品質な音声を生成でき、API連携など開発者にも適したクラウド型Text-to-Speech(TTS)サービスを3つ紹介します。
企業の大規模システムや独自アプリに組み込む際にも活用しやすいツールです。
Google Cloud Text-to-Speechは、Googleが提供するAPI型の音声合成サービスで、ディープラーニング技術を活用した「WaveNet」など最先端の音声モデルを利用できます。
中国語やヒンディー語、日本語、ロシア語など50以上の言語と多数の言語変種に対応し、380種類以上の音声タイプがあるのが魅力です。
イントネーションの自然さやリアルな発声が特徴で、コールセンターの自動応答や多言語対応のアプリ開発、動画ナレーションなど幅広い用途に向いています。
Google Cloud Text-to-Speechは従量課金制で、使った分だけ支払う仕組みです。
毎月100万文字まで無料で試せます。
Amazon Pollyは、AWS(Amazon Web Services)が提供するクラウド型AI音声ジェネレーターで、40言語以上・100種類以上の音声に対応しています。
ニュース読み上げや音声アシスタントなどAmazon自社のサービスにも採用されている信頼性が魅力です。
API連携が容易でゲーム内アナウンスやリアルタイム字幕読み上げなど、充実した開発者向け機能があり、サインアップから1年間は無料利用枠があります。
毎月500万文字まで無料で試せるため、小規模導入や実証実験にも適しているでしょう。
Microsoft Azure Text to Speechは、Microsoftが提供するクラウド型AI音声サービスで、音声対応エージェントやバーチャルアバターなど高度なインタラクティブ機能を構築できます。
多言語に対応し、感情表現や話速・抑揚を細かく調整できる点が強みです。
初期費用は不要で、使用した分だけ支払う従量課金制を採用しているため、導入のハードルも低いでしょう。
企業のコールセンターや教育機関の学習コンテンツ、会議の自動文字起こし連携など、ビジネス用途から教育分野まで幅広く活用できます。
初めてText-to-Speech(TTS)を体験してみたい方や、まずはコストをかけずに音声合成の品質を確認したい方には、無料で使えるサービスがおすすめです。
ここでは、個人利用から小規模な商用利用まで幅広く活用できる注目のツールを2つ紹介します。
VOICEVOXは、完全無料で商用利用も認められているオープンソースの音声読み上げソフトです。
特徴は多彩なキャラクターボイスと調整機能で、イントネーションの細かい編集やハミング音声の生成にも対応します。
WindowsやMacなど主要OSで動作し、導入手順もシンプルです。
公式サイトでは各キャラクターのビジュアルやサンプルボイス、商用利用の条件が詳しく公開されているため、利用前に確認しておきましょう。
動画制作や個人配信でオリジナルの声を求めるクリエイターにも人気があります。
CoeFontは、1万人以上の声優やナレーターの声をAI化した音声合成プラットフォームです。
アニメでおなじみの有名声優(森川智之さんなど)の声、著名人(ひろゆきさんなど)の声、さらには個性的なアニメキャラクター風の音声まで、多種多様なAI音声がそろっています。
公式サイトでは、これらの声をサンプルとして実際に聞き比べながら、自分のイメージにぴったりの音声を探すことができます。
個人向けのFreeプランでは無料で800文字まで音声を生成でき、Webブラウザ上での操作も簡単です。
プロ声優のサンプル音声を聞き比べながら好みの声を選べるため、クオリティを重視したい方にも適しているでしょう。
商用利用や長文読み上げを希望する場合は、有料の月額プランにアップグレードすることで、文字数の拡張や商用ライセンスを利用できます。
AIによるText-to-Speech(TTS)は、入力したテキストを自然な音声に変換する技術として急速に進化しており、個人から企業まで幅広いシーンで活用が広がっています。
従来は機械的だった読み上げも、ディープラーニング技術を活用した最新Text-to-Speech(TTS)では抑揚や感情表現まで再現でき、人の声に近い滑らかな音声を生成できるようになりました。
言語学習や趣味の創作に活用できる無料ツールも多く、気軽に試せるのが魅力です。
ビジネスシーンにおいては、動画のナレーション制作やカスタマーサポートの効率化などに活用され、コスト削減と生産性の向上が期待できます。
ただし、サービスごとに料金体系やカスタマイズ性が異なるため、目的に合わせて適切なものを選ぶことが重要です。
まずは無料プランで試してみたり、デモ音声を聞いてみたりして、最新のText-to-Speech(TTS)がどの程度自然な音声を生成できるのか、ぜひ体感してみてください。
AI時代とも言われる昨今において、Text-to-Speech(TTS)を含めた生成AIの業務への活用は、今後の事業成長において無視できない領域です。
コスト削減や顧客満足度の向上、競争力の強化のためにも、この記事で紹介したText-to-Speech(TTS)ツールを参考に、導入を検討してはいかがでしょうか。